公募選考委員による講評
木ノ下智恵子-Chieko Kinoshita-
大阪大学21世紀懐徳堂 准教授
若手アーティストによる作品展示販売等を目的にした公募「オオサカアートフェスティバル」は、情報開示から提出締切までが短い期間であったにも関わらず、150名以上の応募があった。首都圏や京都などを除いて、昨今の行政主導の文化事業では、全国的に地域活性化やまちづくりなどを目的としたものが多く、さらに大阪の芸術文化環境においては、それすらも枯渇した状況であるため、本応募者数は、このような機会が稀有であり、希求されている、というひとつの指標になるであろう。そもそもアートやアーティストの活動そのもを掛け値なしに純粋に認め、支援する仕組みが不可欠であるため、この数年は “アートフェア”形式の文化政策も珍しくはないが、これもまたアートが産業として成立しうるか、という経済活性化を主眼にしたものであることは否めない。しかしながら、ポートフォリオ審査という、作品とアーティストの履歴を唯一の参照情報とすることは(作品そのものではないため見極めが困難である一方で)シンプルに作品・作家性と向き合えるという点において意義深く、美意識や思想を携えた才能との出会いの喜びがある。芸術性、独創性、国際性、萌芽性の4つの観点から4名の審査委員によって選出された10名が、どのように展覧会として構成されるのか、大いに期待したい。他方、その発表の場となる空間・場所性や期間などの条件は再考の余地があることを、課題としてあえて挙げておく。なぜならば、より良い環境で作品と出会い、向き合えることが、創り手・繋ぎ手・受け手にとって最重要だからである。
小山登美夫-Tomio Koyama-
小山登美夫ギャラリー株式会社 代表取締役社長
久々に大阪府主催の若手のアーティストのコンペということで、多くの様々なジャンルの意欲的な作品が集まったと思います。例えば絵画でも、グラフィティ的な作品からアカデミックな作品まであり、活発な制作状況を見ることができました。ただ、今回はファイルでの審査ということで、ペインティングや彫刻などは作品の試みが伝わりやすかったのですが、プロジェクト系の作品は、インスタレーションという手法をとることで空間、時間を使う表現になり、ポートフォリオだけではうまく伝わってきませんでした。今後のプレゼンテーション方法の改善が必要ではないかと思います。現代の美術の表現方法は多様になってきているので、その状況をきっちりと見ることができると思います。選ばれたアーティストたちが、最高の状態で展覧会の会場での展示を行うことができ、訪れる多くの人たちにその意欲がうまく伝わることを期待しています。
矢作学-Manabu Yahagi-
森美術館アシスタント・キュレーター
今回は短い募集期間にも関わらず150名以上から応募があったことは素晴らしいことです。同時に、活躍の場を求めている若いアーティストが多くいることの証だと思います。今回は選定をする上で独創的な着眼点とコンセプトを持ちながら、それをアート作品として具現化する力のあるアーティストに票を入れました。まだキャリアも浅く、表現の方向性を模索している様子も感じられますが、アーティストの皆さんが自身の作品の強みに気付き、それを大事に磨いていけば、世界でも通用するような作品を生み出せることができると思います。今後、アーティストの方々がどのようなキャリアを歩むかも気になりますが、まずは会場を訪れた来場者を魅了できるよう、enocoで見応えのある展示空間をつくってくれることを期待しています。
加藤義夫-Yoshio Kato-
一般社団法人日本現代美術振興会 理事
応募された作家の作品はこれまでほとんど観たことがなく、絵画・彫刻・オブジェ・写真・版画などの作品はまだしも、インスタレーションやプロジェクト型の作品を限られた時間内に読み込むことが難しく感じた。ポートフォリオ審査の限界を感じつつも、近年はこの審査方法がとられることが多くなってきている。
まず応募された作家の作品をA・B・Cでランク分けした。ほとんどがBランクでCは極めて少なく、応募された作品のレベルは高いと感じた。特に優秀と思われる作家を選ぶとAクラス21名が残った。その中からさらに10名に絞り込んだ。
本審査会では各審査員4名が選んだベスト10を持ち寄り、最終本審査とした。本審査会では審査員で活発なディスカッションを重ね、最終決定10作家を選考した。結果的に倍率は15倍となった。
気になる点としては、応募された絵画作品傾向に既視感が強く、海外作家の影響が強く感じられた。最終審査に残った作品はどれもこれも甲乙つけがたい作品が多く、僅差で選外になった作家も多くいた。