11月12日(日)、市立枚方宿鍵屋資料館にて、「鍵屋花屋敷 ~市立枚方宿鍵屋資料館で花と雅楽を楽しもう~」が開催されました。本イベントは、大阪・関西万博に向け、府内各地にある文化資源のさらなる魅力向上を図る「大阪文化資源魅力向上事業」の一環として、たくさんの人に地域の文化資源に親しんでもらおうと企画されたものです。
会場となった市立枚方宿鍵屋資料館は、江戸時代に京都と大坂を結ぶ水陸交通の要衝であった「枚方宿」の歴史を紹介する唯一の資料館です。イベント当日は、枚方市駅から最寄り駅の枚方公園駅周辺で、毎月第二日曜日に開催されている「枚方宿くらわんか五六市」や「枚方宿街道菊花祭」の開催日とあって、たくさんの人が来場。訪れた人は、風情ある建物の雰囲気も楽しみながら、華人によるパフォーマンスと雅楽による伝統的な演奏を堪能しました。
1997年まで料亭旅館「鍵屋」として営業していた木造2階建ての建物(別棟)は、2023年8月に国登録有形文化財(建造物)となり、枚方宿や淀川の舟運にまつわる史料、絵画、模型、映像などが常設展示されています。寺社仏閣でしかみられない貴重な折り上げ格天井を備えた2階の大広間は、シャンデリアがきらめき、当時の賑わいを今に伝えています。そんな歴史について、館長からご説明いただいたところで、まずは華人、赤井勝氏による装花パフォーマンスが行われました。
華人・赤井勝氏は、1965年大阪生まれ。祖父母は花造り農家、両親は花屋経営という、花に囲まれた環境で生まれ育った赤井氏は、自らを花という素材を通して心を伝える「花人(かじん)」と称し、全国でさまざまな表現活動を繰り広げています。
大広間に集まったたくさんのお客さんを前に、早速作品制作がスタート。赤井氏が最初に手にとったのは、柿の実がおちた枝です。さらに山で色づきはじめた可憐な野ばらも加えられ、季節感を演出していきます。そしてヨーロッパ産の秋色紫陽花や枝垂れる葉が美しいアスパラガス、南アフリカ産のキングプロテアなどインパクトのある花材が続々と登場。「見る人を心地よくおもてなしするもの」「装うもの」という意味で、自身の飾る花を、装花(そうか)と呼ぶ赤井氏の作品は、ダイナミックで力強さもありながら、どこか優しい雰囲気を纏っています。
「その場で感じたこと、出会ったものを大事にしています」と自身の作品へのポリシーも語られ、鍵屋の歴史や人のつながりなどから受けたインスピレーションを作品に反映していきます。「コロナ禍で流通が止まっていた海外の花も大切にしたい、知ってほしい」という想いで、海外の花を中心に作られた作品のテーマは「日本の力」。他国からの知恵や技術を結集し、先人が築いてきた日本に敬意を表したという作品には、日本の未来への希望が込められています。最後は「歴史ある場所で花を生けるという良い機会をいただき、ありがとうございました」と感謝の言葉で締めくくりました。
この他、南アフリカのキングプロテアなどを使った「日本の力(二ホンのチカラ)」も制作されました。
パフォーマンス終了後、来場者は近くで写真を撮るなどして、想い想いに完成作品を鑑賞。完成作品は館内で1週間展示され、訪れる人の目を楽しませていました。
続いては、雅楽演奏団体・伶楽舎(れいがくしゃ)による雅楽演奏です。伶楽舎は、1985年に芝祐靖(しばすけやす)が創設した団体で、発足以来、現行の雅楽古典曲以外に廃絶曲の複曲や正倉院楽器の復元演奏、現代作品の演奏にも積極的に取り組み、国内外で幅広い活動を展開しています。
今回は、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)の3パートによる生演奏となり、笙は三浦礼美、篳篥は中村仁美、龍笛は笹本武志が担当。まずは、雅楽で有名な平調音取(ひょうじょうのねとり)~越天楽(えてんらく)の演奏による音合わせから。普段間近で聴く機会の少ない雅楽の生演奏。厳かな音色はもちろん、伝統的な衣装や所作にも目が奪われます。
演奏の合間には、篳篥奏者の中村仁美氏による楽器解説も。雅楽というと真っ先にイメージする笙は、お椀に竹管が17本差しこまれている特徴的な形状で有名です。ハーモニカのように吹いても吸っても音が出る楽器で、複数の指穴をおさえることで和音を奏でることもできます。篳篥は、本体は竹、吹口は葦(よし)でできていて、葦は淀川河川敷(高槻市鵜殿)に広がるヨシ原の葦を使用しているそう。とてもなめらかで迫力のある音が特徴です。龍笛は音域が広く、その名の通り、龍の鳴き声に例えられる澄んだ音色が印象的。すべて雅楽でしかつかわれない楽器とあって、来場者は興味深く解説に聴き入っていました。
雅楽の曲目は、平安時代から1000年以上伝わるものばかりですが、近年では新曲もつくられています。続いては笹本氏作曲の夜香(やか)を演奏。それぞれの楽器の個性的な音色が溶け合い、幻想的な空間を作り出していました。
主屋西棟の座敷では、「20人20作品展」も開催。画家や書道家など20人のアーティストの個性豊かな作品が、デジタル額縁を活用したギャラリーサービス「2.5GALLERY」を用いて展示されました。デジタルと和の空間の融合がアートの可能性を感じさせます。
館内では、鍵屋資料館と周辺エリアのお店を楽しみながら、京街道の歴史に触れるクイズラリー「AIで体験!歴史なぞ解きまち歩き」も同時開催。会場には、みゃくみゃくやくらわんこも駆けつけてくれ、訪れた人々は宿場町、枚方の歴史に触れながら、文化芸術を満喫し、秋の休日を楽しみました。