5月10日(土)、大阪国際文化芸術プロジェクト「上方伝統芸能公演(能楽・人形浄瑠璃文楽・歌舞伎)」が大阪・関西万博「大阪ウィーク~春~」のイベントのひとつとして、EXPOホール「シャインハット」で開催され、上方伝統芸能の魅力を世界に発信しました。

会場に作られた能舞台の橋掛りから、まずは吉村洋文大阪府知事、横山英幸大阪市長とミャクミャクが登場しました。吉村知事は「能、文楽、歌舞伎が一堂に会することはめったにないと思います。皆さんと一緒に楽しみたい」と挨拶。続いて横山市長が「上方伝統芸能の第一人者の皆様に集まってもらいました。今日は皆さんと一緒に大阪の上方文化を楽しみたいと思います」と期待感を込めました。

公演は、人形浄瑠璃文楽の「三番叟(さんばそう)」から始まりました。「三番叟」は五穀豊穣、延命長寿、子孫繁栄を祈って舞われる演目で、人形が手にしている鈴の音は厄を祓うと言われています。出演は、太夫が豊竹藤太夫さん、三味線が鶴澤燕三さん、人形遣いが人間国宝の吉田玉男さんをはじめ吉田玉翔さん、吉田玉征さんです。お囃子は、望月太明藏社中が務めました。

魂を宿したように躍動感たっぷりに舞う人形。舞台に設けられた「手摺」を越えて前へ出ると客席からは歓声が起こりました。そして、観客の頭上で鈴を鳴らし、福を分けました。また普段の文楽公演では聞かれない客席からの手拍子など万博ならではの盛り上がりでした。

終演後のトークでは「いつもは手摺の中で人形を操るので、めったに手摺の外にでることはありません」と吉田玉男さん。1970年の大阪万博での思い出も語り、「万博での公演は2回目です。こうしてまた日本の伝統芸能である文楽をやらせてもらうのはうれしい限りです」と続けました。万博のテーマである「いのち輝く未来社会」にちなみ、「人形浄瑠璃文楽のどんな未来を描いていますか?」と司会の大抜卓人さんから尋ねられると、「文楽は350年、400年と続いている芸能で、今も若い人が育ってきています。文楽を若い世代に繋いでもらい、世界中のいろんな方に観てもらって、これからも続けてほしいというのが一番の気持ちです。ぜひ文楽の公演も見に来てください」とアピールしました。

続いては能楽の「羽衣(はごろも)」です。天女の羽衣を巡って繰り広げられる有名な物語『羽衣伝説』を基にした作品で、静岡県の三保の松原が舞台です。天女を人間国宝の大槻文藏さん、釣人を福王茂十郎さんが務めました。舞台に四本の柱が建てられると、神聖な雰囲気が漂い始めます。中央には松の木が置かれ、三保の松原が目の前に立ち現れました。松の枝にかかった美しい衣を家の宝にと持ち帰ろうとしている釣人のところへ、どこからともなく天女の声が聞こえてきます。恨めしいような声色に、それが人ならざる者だと感じさせます。

羽衣を返してもらった天女の舞いは美しく、その姿を名残惜しそうに見つめる釣人の背中も印象的でした。囃子方の演奏も熱を帯びていく中、「ヨー」という掛声を合図にすべての音色が止まった瞬間、夢幻の世界から戻ってきたような感覚になりました。

歌舞伎・日本舞踊の前には、歌舞伎俳優の中村壱太郎さんと司会の大抜さんによるトークセッションがありました。大阪・関西万博の感想を尋ねると、「今日、初めて来ました。写真や映像で大屋根リングやパビリオンをずっと見ていましたが、どれも大きいですね。早くいろんなパビリオンを見たいです」と中村壱太郎さん。また世界での歌舞伎の認知について、「今回のように日本の伝統文化も垣根を越えて共演できる機会があると、さらに世界へ日本の文化が広がるのではないかなと、配信や海外公演をしていて感じているところです」。そして「よく歌舞伎は敷居が高いのでは?と聞きますが、江戸時代に生まれた時には庶民のエンターテイメントでした。その流れは今でも続いているので、ぜひ気軽に見てもらえたらと思います」と語りかけました。

日本舞踊の「藤娘抄(ふじむすめしょう)」と、中国に伝わる伝説の霊獣の獅子が登場する「石橋(しゃっきょう)」。『豪華競皐月絵姿(はなきそうさつきのえすがた)』は、これら歌舞伎・日本舞踊の名作舞踊を新たに演出した、この日限りの演目です。藤の花の精が娘姿で現れる場面では、色とりどりの着物に身を包んだ女性の舞踊家が舞台上で華やかに舞い、衣装の早変わりでは、大きな拍手が起こりました。

そして「石橋」では、中村壱太郎さんの父である中村鴈治郎さんと、片岡愛之助さん、市川中車さんが獅子となり、豪快な毛振りで魅了しました。

エンディングでは、本公演の出演者と吉村大阪府知事、横山大阪市長が改めて登場しました。「本当に素晴らしかったです。お能と歌舞伎、感動させてもらいました」と感想を語る吉田玉男さん。大槻文藏さんも「この機会に、本物の能舞台もぜひ観てもらえたら」と呼びかけました。さらに「文楽は人形が生きているみたいに見えましたし、お能もすごく優雅でした。歌舞伎も日本舞踊とのセッションが素晴らしかったです」と声を弾ませる吉村知事。万雷の拍手の中、幕を閉じました。
