10月12日(土)、13日(日)、大阪城西の丸庭園特設舞台で『大阪城西の丸薪能2024』が行われました。大阪を代表する能楽師で人間国宝の大槻文藏、その後継者の大槻裕一を中心に、東京から観世三郎太、野村萬斎、野村裕基など著名な能楽師や狂言師を招聘し、大規模な薪能を開催しました。
たくさんの人が詰めかけた会場は、ライトアップされた大阪城を借景にした素晴らしいロケーション。開演前、客席の照明が落ち、薪に火が入れられると会場の雰囲気が変わります。続いて舞台横のモニターで、イラストとナレーションを使って、演目のあらすじを紹介。会場には海外からの観客のためのイヤホンガイドも用意されていました。
12日(土)は、能「二人静」から。大槻文藏が里人と静御前を、大槻裕一が静御前に取り憑かれる菜摘女を演じます。秋の夜空に笛の音が響くと、演目がスタート。神職に頼まれ、若菜を摘みに行った菜摘女。呼び止められた里人から「私を弔ってほしい」と告げられると、その里人が消えてしまいます。菜摘女は急いで帰って神職にそのことを伝えますが、先ほどの里人=静御前の霊に取り憑かれていて……。演目の見どころは静御前と取り憑かれた菜摘女による舞。2人の美しい姿に観客も見入っていました。
続いては、野村萬斎による狂言「佐渡狐」です。「佐渡に狐がいるかいないか」を言い争い、腰の刀を賭けることになる佐渡と越後のお百姓。佐渡のお百姓は奏者(役人)に賄賂を贈り、賭けに勝ちます。しかし納得がいかない越後のお百姓は狐について問い詰めていき……というストーリー。お百姓と奏者(役人)のユニークなやりとりには会場から笑いがもれるシーンも。テンポのいい会話に会場は物語の中に引き込まれていました。
最後は観世三郎太による能「土蜘蛛」です。病にふせっている源頼光のもとに現れた見知らぬ法師、それは蜘蛛の化け物でした。化け物はその糸で頼光を絡め取ろうとしますが、名刀“膝丸”で斬りつけられ、逃げていきます。頼光から蜘蛛の化け物退治を命じられた独武者は、そのあとを追いかけ……というお話。蜘蛛の糸を投げるシーンで有名なこの演目。緊張感を高める鼓の音が響くなか、法師が糸をパッと放つと、美しい軌跡が描かれます。蜘蛛の精と独武者たちとの戦いの場面は迫力十分。このシーンでも、幾度も糸が宙を舞いました。
2日目、最初の演目は、大槻文藏による能「羽衣」です。舞台は静岡県の三保の松原。浜辺で美しい衣を見つけた漁師の白龍。家宝にするため持ち帰ろうしますが、そこに天女が現れ、衣を返してほしいと訴えます。白龍は本当に天女ならその舞を見せれば返すと伝えると、天女は美しい舞を見せ……。前半は白龍と天女の静かなやりとりが印象的。羽衣を受け取った天女の舞のシーンは、笛や鼓、地謡の声が華麗な舞と相まって、観客を物語の世界に引き込んでいました。
続いては野村萬斎による狂言「痩松」です。獲物が少ない山賊=痩松が女を襲いますが、長刀を奪われてしまい、立場が逆転。女の要求に山賊は……というお話。野村萬斎が山賊を演じたこの演目。女に長刀を奪われてからのコミカルなやりとりが笑いを誘います。斬ると言われるとすぐに言うことを聞いてしまう山賊。次々と女の言うことを聞いてしまう姿に会場からも笑いが起こっていました。
公演の最後を飾るのは大槻裕一の能「安達原」。三鬼女と呼ばれている作品の一つとしても知られています。紀伊の国からの修験者一行がたどり着いたのは東北の安達原。一軒のあばら屋をようやく見つけ、今夜の宿に、と声をかけます。中から出てきたのは老女。一行を泊めることを断りますが、どうにか頼み込み、一泊させてもらえることに。夜が更けたころ、老女は薪を取りにいくと出ていきますが、部屋は覗かないようにと言い渡していきます。しかし、一行のうちの一人が部屋を覗くと、中には数多くの亡骸が。慌てて逃げ出した一行ですが、鬼女に姿を変えた老女が追いかけてきて……。人生の儚さなどを語る老女の哀しげな様子、そして鬼女になり一行と対峙する恐ろしい姿、そのコントラストが印象的。祈りで鬼女に立ち向かうシーンでは緊張感もピークに。迫力のあるやりとりをしっかりと堪能できました。
今回の公演では能の演目の前にあらすじが説明されたことで、能の知識がない人にも、その内容がわかりやすくなっていました。演目中には、演者の姿がモニターに映し出され、細かな動きなどが見やすくなっていたのもポイント。2日間ともに数多くの観客が詰めかけたスペシャルな公演となりました。