2月24日（土）と25日（日）の2日間、大槻能楽堂で「春の謡会2024」が開催されました。室町時代から700年近くにわたり、途絶えることなく受け継がれてきた世界最古の舞台芸術といわれる能楽と現代音楽が、「うたう（謡う）」という共通テーマのもと来場者は伝統芸能と現代音楽を一度に楽しみました。
初日、2月24日は、人間国宝の大槻文藏と、その後継者として若き才能を開花させる大槻裕一らによる能楽と、阿部真央と藤巻亮太よる音楽プログラムが、由緒ある能舞台で繰り広げられました。
この日の能楽の演目は「天鼓」。心地いい緊張感も漂う厳粛な雰囲気のなか、感情を伝える豊かな表現と、それを引き立てる囃子で観客を引きつけ、特に終盤の迫力は会場の集中を最大に高めました。また終演後に大槻裕一とFM802のDJ・深町絵里が司会を務めたトークセッションでは「能楽は歌と舞と音楽からなる、室町時代のミュージカルと思ってもらうと親しみが持てます」、「能にルールはありません。衣装・装束が美しい、能面って不思議、お囃子の生演奏がカッコイイなど、好きな視点で肩肘張らずに観て欲しい」など、楽しみ方について教えてくれました。
音楽プログラムのトップバッターは、デビュー15周年を迎えた阿部真央。「こんなに緊張するのは、小学生の時のピアノの発表会以来」と話しながらも、高校時代に作った片思いの歌『貴方の恋人になりたいのです』を披露。不安や葛藤、負けたくない気持ちを歌詞に込めた『Keep Your Fire Burning』と『I ‘ ve Got the Power』を熱唱。力強く、圧倒的な熱量で心に訴えかけてくる歌声に、観客もどんどん阿部が作り出す世界に引き込まれ、最後に演奏されたライブの定番曲『ロンリー』では、自然と観客から手拍子が沸き起こり多彩な表情で魅了しました。阿部は「能楽堂は音の響き方が最高。無駄な鎧を脱いで、魂そのままで歌えた！」と感想を述べました。
続いて登場した藤巻亮太は、レミオロメン時代の『雨上がり』からスタート。『サヨナラ花束』、『月食』、そして不朽の名曲『粉雪』で会場のボルテージは最高潮に。最後に「小さな幸せ」で締めくくりましたが、会場の観客からはアンコールの手拍子が鳴りやみません。そして、アンコールに応え藤巻は「もう春ですもんね。春の歌が聴きたいですよね？」と「春の謡会」にぴったりな『3月9日』を心を込めて届け、普遍の春の情景を鮮明に広げてくれました。藤巻は「自分にとって今日のステージは宝物。大槻文藏さんと裕一さんの演技に感動した。天鼓の霊という、この世にならざるものが出てくるのに生身以上に生身に感じた。能を拝見して、日本語で歌っているミュージシャンとしておこがましいけれど、ここにルーツがあるのだと感じ、励まされ、背筋がピンと伸びる思いがしました」と、感慨深そうに感想を述べていました。
2日目となる2月25日の能楽の演目には京都の物語「小鍛冶」、音楽プログラムにはCaravanとAwesome City Clubが登場。前日と同じく、まずは能楽から披露されました。
大槻裕一のダイナミックな動きや、人間国宝である宝生欣哉と大槻裕一が剣を打つ場面など見どころが多数。さらに勢いある囃子や金色の豪華な衣装にも観衆は釘づけになりました。
2日目は大槻文藏とのトークの時間が設けられ、昨日から進行役をバトンタッチしたFM802のDJ・大抜卓人からは、人気漫画『鬼滅の刃』を原作とした能狂言の慣習など、新作能や異ジャンルとの共演にも積極的に取り組む様子が紹介されました。700年の歴史の間に、約2000曲もの作品が作られてきましたが、今、演じられているのは約250曲余りだそう。「廃曲の中には、人間が生きる上で重要なこと、普遍的なテーマが描かれているものもある。そういったものを再度上演し、複曲させたい」と大槻。「命ある限り頑張ります」という力強い宣言に大きな拍手が贈られました。
この日の音楽プログラムのトップバッターはCaravan。「ご挨拶代わりの4曲を」と披露されたのは、人の生き方を音楽に昇華する代表曲の『サンティアゴの道』、足を踏み鳴らしながらの『Trippin ‘ Life』、『Kid』、『ハミングバード』。観客に語りかけるような歌声と、ギターの優しい音色に酔いしれる、贅沢で心地よい時間が流れました。Caravanは「すごい迫力だった！マイクやアンプを使わず、身体を鳴らしてあの声量やグルーブを出せるのはすごい」と能楽を実際に観て感じたことなども述べました。
そしてトリを務めるのは、男女ツインボーカルならではのハーモニーが特徴のAwesome City Club。ファンキーな『Talkin ‘ Talkin ‘』、最新曲の『ヒカリ』、そして切ない歌詞が心に刺さる『勿忘』など、ご機嫌なナンバーからしっとり聴かせるバラードまで計7曲を披露。ボーカル2人の伸びやかで心地の良いハーモニーと情感たっぷりに奏でられるギターとピアノで、能楽堂全体をAwesome City Clubの世界観に包み込みました。普段はドライな性格だというギター担当のモリシ―も、能楽にハマってしまったそうで、「プライベートでも能楽を観に行こうと思います」とひと言。
観客も能楽と現代音楽の互いを高めあうコラボレーションを肌で感じ、体感することができた、まさに「謡会」らしいラストシーンで締めくくられました。
