10月26日(土)・27日(日)の2日間にわたり、グランフロント大阪北館1階ナレッジプラザにて大阪国際文化芸術プロジェクトの一環である『OSAKA ART MARKET 2024』が開催されました。
大阪府・大阪市などが主催する『OSAKA ART MARKET 2024』は、アーティストに向けて活躍の場を提供するとともに、来場者には気軽にアートに親しむきっかけづくりを行うというもの。吹き抜けの広々とした空間には、大阪で活躍する現代美術アーティストを中心に、たいぞう、レイザーラモンHG、ミサイルマン岩部彰といった芸人アーティストを含む総勢50名の作品がズラリ!しかも、そのほとんどが販売されており、お気に入りのアートを“持ち帰る”ことができます。また、中央に設けられた特設ステージでは、ライブドローイングやアートにまつわるトークショーなどが行われ、多彩な顔合わせが続々。まさに芸術の秋にぴったりの催しは、多くの来場者で賑わいました。
アートとの出会いの場に!
白い壁で細かく仕切られた会場は、いわば小さな美術館の集合体。気鋭のアーティストたちの作品が圧倒的な密度で展示され、熱心な愛好家はもちろん、通りすがりの初心者もふらりと立ち寄れる、アートとの出会いの場となっています。展示スペースにはアーティストが在廊しており、来場者の質問に答えるなど交流のチャンスも。作品展示だけでなく、ステッカーやポストカード、アクセサリーなどオリジナルのグッズなどが並ぶブースもあり、見るものを飽きさせません。
黒と白をベースにした作品群で目を引いていた大須賀基は、「絵を描くことで、自分がいつも感じている矛盾なんかを、整理してまとめて解放できる。見てくれた中に自分と同じような境遇の人がもしいたら、救われてほしいなっていう気持ちで描いています」と想いを語ります。伝えたいことをストレートに感じてもらうため、色は白と黒がメイン。逆にメディアはさまざまなものを使っており、「四角いキャンバスに描く時もあれば、自然に割れたガラスのカタチに描いてみたり。心にはカタチがないので、なるべく統一感が出ないように意識しています」。今回、特に力を入れたのが、中央に位置する蛍光イエローが印象的な作品。アクリル板に万年筆で描いており、「(アクリル板は)置いた場所によって雰囲気を変えていく。自分の性格も人としゃべる時にキャラクターが変わったり、思ってないことを言ったりすることがあるので、そういう説明できない心のもやもやみたいなものを描かせていただきました」と話しました。
「熱を視覚的に感じられる塊」を創作しているのは、古家達成。“熱(エネルギー)”を土や大地に見立てて、木や紙の素材を用いて視覚的に表現し、“熱”を再認識できる装置を生み出し続けているといいます。その装置の形は、平面のものから立体のものまでさまざま。「生命活動の中で熱は不可欠ですが、視覚的に捉えるのは難しい。この塊は、熱を視覚的に再認識できる装置と捉えてもらえたら」と説明します。「直接的に見せることが難しいので、土っぽさやバーナーで炙った焦げ跡で熱を感じてもらいたいです」。変わった形の立体作品もひときわ目を引いていました。「形的なモチーフはソフビと遺跡のかけ合わせ。コンセプトは、頭の中のイメージの欠落です。誰かを思い浮かべたとき、少しだけ欠けていたり不完全だったりすると思うんですけど、それを発掘した塊という感じです」と語りました。
久保沙絵子は、線画で多くの来場者を魅了していました。風景を描いた緻密な線画はフリーハンドで、下描きをしない一発描きというから驚かされます。なぜ一発描きにこだわるのか、理由をこう語ります。「フリーハンドでどれだけまっすぐ線を描けるかを試みている瞬間がすごく好きなんです。ジリジリ、ゆっくり描くのですが、なかなか思うようにいかなくて、揺れたりするのがおもしろいなと思っています」。今回の作品群は、道頓堀や天神橋筋商店街、梅田連結デッキからの風景画など、関西の人なら親しみのあるものを抜粋して展示。「大阪での開催ということで、皆様がよくご存知であろう風景を持ってきました」。天神橋筋商店街の風景画を描いているときは、ずっと同じ場所に立って描いていると近くの店の方が「どう?できた?」と話しかけてくれ、イカ焼きを差し入れてくれたそう。街の風景でありながら、そこに暮らす人々の温度や暮らし、そしてそのときに感じた久保の情感をもペンに乗せて描いているのだといいます。
ドラムのリズムに乗って「飛べ!」
中央に設けられた特設ステージでは、2日間にわたってライブドローイングやアートにまつわるトークショーが行われました。
26日(土)は、2つのイベントが行われました。MCを務めるのは、浅越ゴエ(ザ・プラン9)と高樹リサ(FM802 DJ)です。午後1時からは、イラストレーター・グラフィックデザイナーとして国内外で活躍し続ける黒田征太郎と、TikTokで100万人超のフォロワーがいるバケツドラマーのshiutaによるアートセッション。大阪・アメリカ村の象徴ともいえるモニュメント『PEACE ON EARTH』をはじめ、世界各国でライブペインティングや壁画制作を行ってきた黒田は、85歳になった今も大阪、そして日本のアート界を牽引し続ける存在。shiutaは、衣装や楽器であるバケツに自らペインティングする画家の顔も持っています。
「何の打ち合わせもしていない」という黒田は「絵は大自然が人間に教えてくれたもの。音楽も風の音から生まれたんだと思う。もう1回そこに帰りましょう!」と呼びかけ、shiutaの演奏が始まると、絵の具をつけた手のひらをキャンバスに叩きつけます。リズムと呼応するかのように、次々と重ねられていく新たな色、線、形──真っ白だったキャンバスに、次々と命が吹き込まれていきました。
時折、作品や黒田の動きに目をやりながら、リズムや音色を変化させていくshiuta。足で器用にバケツを移動させ、作品の間近で演奏し始めるなど、2つのアートが呼応していくさまは圧巻!約30分のセッションを終え絵が完成すると、黒田とshiutaはガッチリと握手を交わしました。
描かれた鳥たちに「飛べ!」というメッセージを込めたという黒田。「せっかく生まれてきたんやから、飛ばなあかんという気持ちを込めた。生まれて来たことを楽しんでいくしかない」という熱い言葉に拍手が起こります。shiutaが、家に引きこもっていた10代の頃、父に連れられ黒田をはじめとするさまざまなアーティストの作品展を見に行ったことが、自身も絵を描くきっかけになったと明かすと、「それで今日があったんやね。うれしいね」と黒田。その後も楽しいトークは止まらず、大盛り上がりのひとときとなりました。
トークの締めくくりは個性爆発の似顔絵
26日(土)午後3時からは、くっきー!(野性爆弾)と石塚大介(アーテイスト/ギャグ漫画家)によるトークショーが開かれました。お笑いコンビ、野性爆弾でネタ作りからコントの小道具、似顔絵などすべてを手掛けるくっきー!は、アーティストとしても高い評価を受けています。一方の石塚は、現代アートに取り組むかたわら、インスタグラムで約15万人のフォロワーを持つギャグ漫画家としても活躍中。実はくっきー!が「一番大好きな芸人さん」だそうで、少し緊張している様子の石塚。くっきー!も石塚の作品について「すごいのよ!」と手放しで称賛しており、まさに相思相愛の関係です。
石塚が今回、展示している作品は「自分の人生を反映している。野球をやっていたので、その当時思ったことなど感じたことを投影している」とのこと。当初はギャグ漫画家を目指し、大阪芸術大学キャラクター造形学科に学びましたが、30歳の時に北極へ行ったことが転機に。「その地平線を見ているうちに、もっと大きなものをやってみたくなった」と振り返ります。現在、インスタグラムに掲載している『がんばれ!田中みのるくん』というあるある作品も好評で、「インスタではバズるように変な漫画を描き、アートは真面目にやっている感じ」と自身のスタンスを説明しました。
くっきー!のアートの出発点は、なんと『キン肉マン』。兄と『キン肉マン』の絵を描いて遊んでいましたが、兄が上手すぎて勝てなかったため、あえて“いびつなキン肉マン”を描くようになったのだとか。そこから、現在につながる独特のセンスやタッチが生まれたようです。
ほかにも、海外の方から作品の意図について質問された時の答え方や、スランプの有無など、さまざまなテーマでトークを展開。観覧者からの質問コーナーを挟みつつ、最後は即興で似顔絵も。くっきー!は高樹、石塚はゴエを、3分程度でさらさらと描いていきます。出来上がった作品は、どちらも個性が爆発!ゴエは「こわっ!目が血走ってる!でも僕ですね……!」と感心。高樹さんはくっきー!流にアレンジされた自分の顔に思わず爆笑し、「こんなに刈り上がってたんですね」とうれしそうに眺めていました。
ダイナミックかつ優美!TOMOKAの「バトン書道」にうっとり
27日(日)も、特設ステージで書道パフォーマンスとトークショーの2つのイベントが行われました。瀬戸洋祐(スマイル)、樋口みどりこによるMCのもと、午後1時から開催されたのは「TOMOKAバトン&書道パフォーマンス」です。
書道とバトントワリングを融合させた「バトン書道」という、ダイナミックなパフォーマンスが魅力のTOMOKA(竹田知華)。着物をモチーフにした、凛として華やかな衣装で登場します。壮大な音楽に合わせ、バトンの両端に穂首が付いた独自の筆を使って真っ白な壁を力強く彩っていく様子に目が離せません。そのパフォーマンスは躍動感にあふれ、実に華麗で大胆。ときに筆を手持ちサイズに持ち替えて、エネルギッシュに、繊細に筆を走らせていきます。目の前で作品を創り上げるプロセスを、観客は息を呑んで見守っていました。いよいよクライマックス、「彩」という筆字とともに、雄大で美しい「孔雀」が姿を現しました。
アートを楽しむ秘訣は「人それぞれ、見たままを楽しむこと」
27日(日)午後2時30分からは、リリー(見取り図)と、大阪在住のアーティスト・井口舞子、山田HOWの3人によるトークショーが開催されました。美術の教員免許を持つリリーは、「Lmaga.jp」に「リリー先生のアート展の見取り図」の連載を持つほど美術に造詣が深く、美術鑑賞が趣味。一方、井口は、主にアクリル絵の具と油絵の具を用いて日常と植物、自然物の作品を描くアーティスト。そして山田は、自分が描いたドローイングをシルクスクリーンで再構成するセルフコラージュ印刷作品で、独特の色彩感覚とシャビーシックな雰囲気の作品が魅力のアーティストです。
その3人が「アートの見方」をテーマに語り合うというもの。司会・進行は瀬戸洋祐(スマイル)、樋口みどりこが務めました。
まずは今回お二人が出展されている作品を紹介。井口の作品は、日常の中に存在する希望や穏やかな気持ちがテーマ。山田は、看護師に着想を得た作品です。リリーはまず「2人とも、うまいですね!」と、とぼけながらも「現代的な要素もあるし、バズりそう。アートも今はSNSで発信したり、そういうことも大事」と真剣に回答。「昔はひとりにハマればよかったけど、今は大多数にハマらないと。難しいですよね」とアートを取り巻く現状を語り合いました。
また、絵を鑑賞することも自分で描くことも好きなリリーが、絵を描く理由をこう話します。「僕の場合はお酒を呑みながら何も考えずに描くと、瞑想みたいにストレスが抜けていく感じがするんです。だから、作品をつくるというよりは、誰にも見せない、自分だけの、自分へのアートなのかも」。アートは身近にあると言い、「誰かに見せる必要はないので、人それぞれのアートを追求してほしいですね」と観客に語りかけます。
また、アートに詳しくない人がアートを楽しむにはどうすればいいかをディスカッション。井口は、「直感的に、色や形から、『これはなんだろう?』と見ていただけたらおもしろいのかな。人それぞれ、見たまま楽しんでもらえるのがいいなと思います」とのこと。山田は「私は『なんか好き』というところから入ることが多いんですけど、分析する前に『なんか好き』『温かい』と感じることで作者とコミュニケーションが取れていると思います」と答え、「そこからなぜ好きかを追求すると、鑑賞者の方の“核”にもたどり着けると思うので、ぜひ感覚を大切に、作品を見ていただけるとうれしいです」と話します。これを受けてリリーは「学生の頃は(アメデオ・)モディリアーニとかめちゃ気持ち悪いと思ってたんですけど、今見たらめっちゃいいんです。自分の精神年齢によっても違うのかも」と思いを巡らせていました。来場者からの質問コーナーも設けられ、関心の高さが伺えます。アーティストとコンテストにまつわる話題では、アーティストも賞を獲れば、評価されて活動の場が広がるという点では「芸人に似ている」という結論に。さらに作品づくりの過程を明かす場面でも、「アートの作品づくりとネタづくりは似ている」という話で盛り上がり、共通点を見つけて共感し合う3人でした。
「人生を賭けて追求するのは幸せだけど大変なこと。だからこそアーティストを尊敬します」
27日(日)のトークショー終了後に囲み会見が行われ、リリー(見取り図)とアーティストの井口、山田が出席しました。トークショーの際に、「アーティストと芸人の境遇が似ている」という共通点を語り合ったことに対し、改めて「アートもお笑いも、答えは人それぞれ」とリリー。「おもしろいと思うことも違うし、美しいと感じることも違う。その追求を人生でやっていくって、幸せであり、すごく大変なことだと思うんです。だから僕はアーティストの方を尊敬してます」と話します。井口は「お話を聞いて『なるほどな、近しいものがあるんだ』と驚きました」と目からウロコが落ちた様子。山田も「自分の味を出したいと思いながら、まわりから『ああしたほうが』『こうしたほうが』とアドバイスを言われると、何を削って何を残すかと考えたりするのも共通点があるなと思いました」とネタ作りと作品づくりの類似点に共感したと話しました。
続けてリリーは「芸人の世界もアートの世界も、注目されるのは本当に一握り。僕らもまだまだ中途半端なんですけど、こうしたアート展に出展できていないアーティストさんの気持ちもわかるんで、がんばってほしいです」とエールを贈りました。また、お笑いの世界に入ったあともずっと美術を愛するリリーは「こんな形でつながってうれしいです。好きなことが仕事になるって幸せ。ゆくゆくは個展とかしてみたいです」と意気込みました。