レポート

「謡う」をテーマにつながる伝統芸能と現代音楽!大槻能楽堂で「春の謡会2025」開催!

開催日程:

2025年1月18日(土)、19日(日)

会場:

大槻能楽堂

1月18日(土)、19日(日)の2日間、大槻能楽堂で「春の謡会2025」が開催されました。「謡(うた)う」という共通テーマのもと、伝統芸能と現代音楽を一度に楽しめるこのイベント。集まった観客は、人間国宝の大槻文藏と、その後継者である大槻裕一たちによる能楽と、音楽プログラムを堪能しました。

能楽の言葉やせりふである「謡曲」は、日本古来の楽曲として現代音楽にも派生してきたと言われています。初日となる1月18日(土)に行われた能楽の演目は「船弁慶」、音楽プログラムにはかりゆし58、日食なつこが出演しました。

西国へ逃れるため、恋人である静御前と離れ離れとなる落人となった源義経。静御前は別れの舞を舞うと、義経の無事と再会を願い、去っていきます。義経はそのあと平家の総大将、平知盛の亡霊に船を沈められそうになりますが、弁慶の祈りでその難を逃れる、というのがこの演目である「船弁慶」。
前半のシテ、静御前の静かで切ない舞。それに対して悪霊となって現れた後半のシテ、知盛の鬼気迫る舞。それぞれに魅力的な2つの舞のコントラストは素晴らしいのひと言。また、ときに優しく、ときに激しく響く囃子方も大いに舞台を盛り上げました。

舞台のあとは、後シテとして出演していた大槻裕一のトークセッションへ。FM802・DJの深町絵里がMCを務めました。能楽が今の形になったのは室町時代で、衣装などはすべて受け継いできているものといった能楽の歴史について触れます。そして、舞台は神聖な場所なので必ず白足袋で上がるといったルールや、舞台へと続く「橋掛り」がこの世(メインステージ)とあの世(揚幕の向こう)を隔てているもの、能舞台の周りに必ずある白洲は太陽の光で舞台を照らすものだった、などと能舞台に関するあれこれについても話しました。

そしてこの日の演目「船弁慶」については、ストーリーがわかりやすい人気の物語で、自身も80回ほど演じていることを明かすと、能面の使い方、お囃子の演奏の仕方、発声の仕方などでギアチェンジするのがおもしろいところと説明。トークの最後には、新しい演目もやっていることなどを話すと、「大槻裕一でインスタをフォローしていただいて」と笑わせ、「また足を運んでいただいて能のとりこになってください!」と伝えました。

音楽プログラムの1番手は、ピアノ弾き語りソロアーティストの日食なつこから。澄んだピアノの音色と伸びのある声で1曲目の「幽霊ヶ丘」がスタートします。続いての「99鬼夜行」は、真っ赤な照明に照らされながら迫力を感じさせる熱唱。軽やかなイントロから始まる「Misfire」、「泡沫の箱庭」へと続きます。そして、ありふれた朝の風景について語りながら、「自分のやる気を買ってこなくちゃ」と「必需品」へ。曲間をつなぐ独特な語り口のトークが、次の曲への入口になっています。「百万里」、「非売品少女」と続けたあと、ラストチューンの「水流のロック」では、会場も手拍子でレスポンス。ピアノと声だけでありながら、圧倒的な広がりを感じるステージを見せてくれました。

演奏のあとのトークでは、能楽堂でのライブについて、いつものステージとまったく形も違うので、気持ちもお邪魔してますという感じ、ドキドキしましたと笑顔。選曲については、この場所で自分なら何を聴きたいだろうと選んだと明かします。最後になかなか交差することのない、いにしえの歌、現在の歌のカルチャーの交差点がここだと思うので、この景色をしっかり覚えて帰ってもらえたら、と話しました。

一転してアコースティックなバンドサウンドを聞かせてくれたのがかりゆし58。「皆さんこんにちは、あけましておめでとうございます」と挨拶すると、2025年の歌い始めであること、人生で初めての能の舞台でワクワクがいつもよりすごいと明かし、「自由な時間をいっしょに味わいましょう!」と「ホームゲーム」からライブがスタート。そして愛すべき“おっちゃん”の歌「まっとーばー」を歌うと、母親への深い愛を綴った「アンマー」へ。続いて、誰もの背中を押してくれる「ウクイウタ」から、最後は「ここにいるあなたが一番新しいあなたです」と会場へ語りかけると、ラストの「オワリはじまり」を歌い上げました。

ライブ後にはトークも。能の舞台について愛おしさと敬意が混ざった感じと話すと、音楽の一番古いルーツみたいなもの、現代につながるものを感じたとも。そして来年バンドが20周年を迎えることに触れると、今年がバンドの10代最後、初期衝動、いい青さを出し切ろうと思ってますと2025年の抱負を語りました。

2日目の能楽の演目は「野守」。音楽プログラムには、CHEMISTRY、八木海莉が登場しました。

「野守」は、大和国・春日の里へやってきた山伏が、通りすがりの野守の老人にいわれがありそうな溜まり水について尋ねます。老人は、そこが鬼神の持っていた「野守の鏡」であることを教えると、それを見たいと言い出す山伏。しかし老人はそれを断り、塚の中に姿を消します。山伏は続いてやってきた里人から鏡のいわれを聞き、さっきの老人が鬼神ではないかと察します。そして祈祷を始めたところ、仏法の力に引かれ、鏡を手にした鬼神が現れると、天地四方を映して見せたあと、大地を踏み鳴らし、地獄の底へと帰っていくというお話。前半の野守の老人と山伏の静かなやり取り、後半の鬼神が橋掛かりを素早く移動する様子、さらに激しく足を踏み鳴らす迫力のある姿は、静と動の対照的な姿を鮮やかに見せてくれました。

能楽のあとには、後見として舞台に出演していた人間国宝・大槻文藏のトークセッションがスタート。MCはFM802・DJ大抜卓人が務めました。後見や、舞台にある柱の役割、橋掛りなどについて説明すると、人気漫画「鬼滅の刃」とのコラボレーションにも言及。初演では「累」、続いて「牛太郎」を演じたことを明かします。そして「野守」の後半、「鬼神が足を踏み鳴らすのも音楽の一つ」と話すと、能には様々な鬼が登場すること、さらに人は深層心理に鬼になる要素を持っている、その心の鬼を能は扱っていることなどを伝えました。

「野守」でシテを演じた大槻裕一については、一生懸命やっていたと笑顔を見せつつ、もっともっと力強くなってもらわないと、と注文して笑わせるひと幕も。そして改めて能楽について、「室町時代の音、歌謡、室町ミュージカルといっていい」と話すと、そこから600年ほどの歴史が流れ、今日の音楽になる、人間の営みのなかには音、歌謡がずっとつながっていると思うと発言。さらに、みなさんが好きな音楽も600年前から続いていると呼びかけると、今日見てもらったのは今日の野守、来年はまた違う野守になる、舞台とはそういうもの、これを機会に能に足をお運びいただければ、と話しました。

2日目の音楽プログラムのオープニングを飾るのは八木海莉。能楽堂の照明が落とされ、ピアノのイントロが響くと、透明感のある声で「健やかDE居たい」を聴かせます。歌い終えると会場に挨拶し、2曲目の「セレナーデ」へ。何かを求めているような、緊張感のある歌声が感情を揺さぶります。MCでは「こんな素敵な場所でライブできてうれしかったです」と笑顔を見せ、ラストの「know me…」を歌い上げました。

ライブ後のトークでは、「めちゃくちゃ気持ちよかったです」と話すと、能の舞台は初めてと明かします。そして能を見た感想として、「日本の伝統的な文化を目の前で見て、すごいものを見たと思った」と話し、絶対影響されて帰ると思いますと感想を伝えました。

2日に渡って行われた「春の謡会2025」のトリを飾るのはCHEMISTRY。橋掛りから2人が姿を見せると、拍手が起こります。そして静かなピアノをバックに「月夜」からライブがスタート。ガラリと趣を変えた、軽快な「PICES OF A DREAM」では、客席からは自然と手拍子が起こります。2人は感謝を伝えると、「橋掛り」について説明し、会場に知ってた? と問いかけ。続いてこの能楽堂が築90年と話しますが、なぜかリアクションが薄く、2人は驚きの表情。その様子に会場からは笑いも起こりました。

続いてスローなバラード「You Go Your Way」へ。心地よく、そして切なく耳に響く2人の伸びやかな歌声が能楽堂を包み込みます。素晴らしいのは、その美しいハーモニー。2人の声が溶け合うことで、楽曲がより感情に訴えかけてきました。「Play The Game」、「Get Together Again」、そしてラストの「ユメノツヅキ」では、観客がスタンディングでレスポンス。能楽堂が熱を帯びたライブ会場となりました。

ライブ終了後のトークで、MCから90年の歴史のなかで初めて観客が立ったようだと聞かされ、2人は驚きの表情。そして「ひとつになりましたよね」と客席に問いかけると拍手が起こります。リラックスしたトークで最後まで会場を盛り上げました。

  • イベント名
    春の謡会2025
  • 開催日

    2025年1月18日(土)、19日(日)

  • 会場

    大槻能楽堂

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