レポート

伝統芸能と現代音楽をひとつの舞台で堪能できる特別な公演!登録有形文化財の大槻能楽堂で「春の謡会2026」開催

開催日程:

2026年2月22日(日)、23日(月・祝)

会場:

大槻能楽堂

「うたう(謡う)」をテーマに、伝統芸能の能楽と現代音楽が融合する特別なプログラム「大阪国際文化芸術プロジェクト『春の謡会2026』」が、2月22(日)、23日(月・祝)に大槻能楽堂で開催されました。

初日となる22日(日)には、人間国宝の能楽師・大槻文藏さん、その後継者である大槻裕一さんらが演じる「能楽」の舞台に、Maynard & Blaise(MONKEY MAJIK)、Reiさんによるアコースティックスタイルの「音楽」ライブがコラボレーション。伝統と現代が融合し、世代を超えて伝統芸能に触れられる貴重な機会となりました。 

会場となる大槻能楽堂は登録有形文化財に指定された、90年以上の長い歴史を持つ由緒ある舞台で、能楽は世界最古の舞台芸術と謳われ、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている日本古来の伝統芸能です。開演時には、イベントのナビゲーターを務める大抜卓人さんが能楽の歴史や魅力についてレクチャー。「能楽で綴られる言葉や謡曲は日本古来の楽曲であり、現代音楽の原点」と伝えるとともに、「音楽の原点と最新のスタイルがひとつになり、まさに“音楽が継承される”瞬間を共に楽しもう」と、言葉を送りました。

また、能楽を初めて観る人もスムーズにその世界に入り込むことができるよう、演目についてのあらすじや登場人物についてのレクチャーも行われました。 

まずは能の舞台の「謡(うた)」から。この日の演目は、大槻文藏さんがシテ(主役)を務める『俊寛』。人間国宝である大槻文藏さんが能面をつけて演じる、心の機微が伝わる所作は、誰もが息を飲んで見入ってしまうほどの美しさ。衣擦れの音さえ聞こえる静寂のなか、笛や鼓の囃子、登場人物たちの謡曲は聞き惚れるほど荘厳で、あっという間に物語は終わりを迎えました。
トークセッションでは大槻裕一さんが能の世界の魅力や舞台の構造について語り、「能は音楽のライブと同じように“生”で観てもらうことが大切。これからも大槻能楽堂へ足を運んで、日常とかけ離れた空間を楽しんでほしい」と思いを語りました。

続いては現代音楽の「歌(うた)」、シンガーソングライター・Reiさんのライブへ。デビュー10周年を迎えた彼女。この日はブルージーなギターをかき鳴らす『my mama』から、『How Deep is Your Love/Bee Gees』のカバーまで、多彩な楽曲を披露。『ORIGINALS』で爪弾くギターの旋律は彼女自身のストーリーを描いているようで、まるでひとつの物語を見ているかのようでした。能舞台の背景(鏡板)に描かれた老松は神が宿る依代を象徴したもので、たった一人、凜とした孤心を湛えるかのようにギターを弾きながら歌う姿は、能舞台に馴染んでいました。 

10代の頃に伝統芸能について学んでいた経験があり、この日が念願の初めての能楽鑑賞だったという彼女。「音楽に垣根はない。素敵な音楽を共有できることがうれしい。本物の芸って、こういうこと。鳥肌が立つほど痺れる、刺激的な一日。神聖な舞台で歌えることが幸せ」と熱く思いを語ります。さらに『ORIGINALS』では、先ほど観たばかりの『俊寛』で演奏されていた笛のメロディを耳コピしてイントロにアレンジしていたことも告白。ブルーズやオールド・ロックなどのルーツミュージックへリスペクトを持つ彼女らしい、“うたを繋ぐ”粋なサプライズに、賞賛の拍手が送られました。 

Maynard & Blaise(MONKEY MAJIK)の2人もまた、能楽へのリスペクトと多幸感あふれるステージで楽しませてくれました。まずは名曲『Together』で柔く温かなメロディと、強くしなやかな歌声を響かせると、春の到来を感じさせる色彩豊かな『Around The World』など、国境もジャンルも超えた楽曲で会場を盛り上げていきます。「こんな素敵な舞台は初めて!呼んでもらえて光栄です」と、言葉を弾ませました。

MaynardさんとBlaiseさんは宮城県在住のカナダ人兄弟。Maynardさんは演劇を学んでいた学生時代、論文作成で古典芸能のひとつとして「能楽」を題材に選び、集めた資料に掲載されていた「大槻能楽堂」の舞台を覚えていたという。Blaiseさんも歌舞伎が好きだったり、趣味で能楽を披露してくれる親戚がいたりと、能楽には不思議な縁があったとのこと。そして今年でデビュー20周年を迎えるMONKEY MAJIKもまた、三味線など和の音色を取りいれたオリエンタルなロックサウンドを展開し、国境もジャンルも超えた音楽を鳴らすアーティスト。この日も『Livin’ in the sun』など、新旧の楽曲でバンドの魅力をアピール。ラストは「人生で一度きりかも。忘れられない一日に!」と、『空はまるで』で観客と大合唱し、大団円で幕を閉じました。 

2日目も、イベントのナビゲーター・大抜卓人さんによる能楽の歴史や魅力の紹介から公演が始まりました。大抜さんは、3代将軍・徳川家光の時代、参勤交代で江戸に集った青森と鹿児島の大名の会話が成立しなかったことに端を発し、武士のたしなみである能楽の言葉が標準語の始まりとなったというエピソードを紹介し、「標準語に節回しをつけたのが謡曲、そこにジャンルの色付けが入っていったのがポップスやロック。点が線となる時代の流れを楽しんでいただける機会」と述べました。併せてこの日の演目「大会(だいえ)」のストーリーと見どころをわかりやすく説明し、客席の期待を高めていきました。 

この日もまずは能の舞台からスタート。人間国宝・大槻文藏さんの後継者である大槻裕一さんがシテ(主役)を務めました。「大会」は、比叡山の僧に命を助けられた大天狗の恩返しの物語。釈迦の説法を見てみたいと言った僧の頼みを叶えるため、天狗は釈迦に扮して説法を再現。僧は思わず感動して手を合わせてしまったところ、帝釈天の怒りを買ってしまうというお話。物語後半、後シテ(衣装替えを挟み、後半に登場するシテ)は、釈迦と大天狗の面を2つ重ねて登場。釈迦から大天狗に変化する早替りは圧巻で、豪華絢爛な衣装、ダイナミックなジャンプや動きは大迫力。鼓や笛の音色も美しく、あっという間の上演時間となりました。

トークセッションでは、大槻文藏さんが能楽や舞台についての興味深い話を聞かせてくれました。舞台で面をつけると視界が非常に狭くなる上に、2つ重ねるとほとんど前が見えないそうで、そんな演者がどうやってジャンプをするのかと聞かれた文藏さんは「勘です」と朗らかに回答。そして「能は、人間の深層心理の奥深くに潜んでいるものを抽出して拡大鏡で見るような形で物語が進んでいきます。ぜひ想像力を持って能楽堂に足を運んでいただきたい」と来場者にメッセージを送りました。

続いてはGLIM SPANKYが登場。松尾レミさん(Vo.&Gt)のハスキーボーカルと亀本寛貴さん(Gt)のギターで、『怒りをくれよ』『赤い轍』『ひみつを君に』をパワフルかつブルージーに歌いあげ、能楽堂の空気を一変させました。
続けて、みずみずしいメロディーと爽やかな歌詞が印象的な新曲「春色ベイビーブルー」をライブ初披露し、観客も大いに盛り上がりました。松尾さんは「能の舞台すごかったですね。めちゃめちゃカッコ良くて、神聖すぎてドキドキしました。日本の文化が受け継がれて、今ロックと能というカルチャーが大阪で生まれていることがとても素敵」とうれしそうに伝えました。亀本さんは舞台を見渡して「音と木って相性が良いんですよね。有機的な感覚で音程をとれる。自然体でできる感じ。過去一番のレベルで演奏しやすい」と笑顔を浮かべました。松尾さんは「心に訴えかけてくる歴史と能のすごさに息を飲みました。この舞台は色々な時代を見てきた。今日ここに立てて本当に嬉しいです」と述べて、最後に自身が学生の頃から歌い続けている『大人になったら』を情感豊かに歌い上げました。彼らの音楽に滲む哀愁やノスタルジーが能舞台の雰囲気と融合して、会場は大きな感動に包まれました。

THE BAWDIESからは、ROYさん(Vo)とTAXMANさん(Gt)が登場。今回初めて能を観たという2人も大いに感銘を受けた様子で、ROYさんは「大抜さんがストーリーを言ってくださったおかげで理解できた。最初にストーリーを知って能を観にくる方も多いみたいで、今日そのシステムを取り入れてみようかな」と、曲を演奏する前に、楽曲の意図や背景を丁寧に、笑いも巻き起こしながら説明していきました。『IT’S TOO LATE』『COME ON,LET’S PARTY』『LEMONADE』を披露した後は、『Try Me/James Brown』『Stand By Me/Ben E. King』『Shake Your Money Maker/Elmore James』と自身のルーツである50〜60’sのブラックミュージックをカバー。こちらもそれぞれの曲が生まれた時代背景、ロックとロックンロールの違いなどを文脈も含めてわかりやすく紹介。ROYさんのソウルフルな歌声と音楽愛、知識の深さ、持ち前の明るいキャラに観客も夢中になり、その話に熱心に耳を傾けていました。音楽への愛と情熱を表した、生き生きとしたライブに観客からも大きな歓声があがりました。 

イベントの最後には、この日この場所だけのスペシャルセッションとして、『Blowin’ in the Wind/Bob Dylan』を、GRIM SPANKYとROY & TAXMANの2組でカバー。ROYさんと松尾さんのハーモニー、TAXMANさんと亀本さんのギターによって生み出される特別で贅沢なステージに、客席からは割れんばかりの拍手が贈られました。 

能とライブを通して、伝統芸能と最新の現代音楽の融合を深く体感し、文化や歴史までをも知ることができた2日間は、大盛況のうちに終了しました。

  • イベント名
    春の謡会2026
  • 開催日

    2026年2月22日(日)、23日(月・祝)

  • 会場

    大槻能楽堂

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