11月24日(日)から11月30日(土)まで、天満天神繁昌亭、動楽亭、落語みゅーじあむで行われた大阪国際文化芸術プロジェクト「第五回 大阪落語祭」。次代を担う上方落語家を中心に東西の金看板も加わり、通常の寄席とは一味異なる落語会が連日開催。「大阪・関西万博」を控えるなか、上方落語の魅力を大阪から全国に向けて発信しました。
「落語のまち」池田の落語みゅーじあむで寄席を開催
11月24日(日)は、落語みゅーじあむで「池田お楽しみ寄席」を開催。桂福留、月亭遊真、桂千朝、桂八十八、そしてトリには桂春若が「京の茶漬け」を披露。詰めかけたお客さんは、若手からベテランまで、上方落語を堪能しました。
「動楽亭」では大阪生まれの新作落語など上方落語ならではの企画寄席を
上方落語の定席「動楽亭」では、上方落語の歴史にゆかりのある長編ネタやハメモノネタ、大阪で生まれた新作落語など、上方落語ならではの企画寄席を上演。11月25日(月)は「落語作家 小佐田定雄 作品特集」と題し、桂りょうば、桂佐ん吉、桂梅團治、桂吉弥、桂雀三郎が人気の小佐田作品を口演しました。
オープニングトークでは小佐田と雀三郎が登壇。雀三郎は小佐田作品を最も高座にかけている噺家とのこと。1986年から7年にわたり、「雀三郎製(じゃくさんせい)アルカリ落語会」という新作落語の会を毎月1回、開催していたという二人は、当時の思い出話でも盛り上がりました。「新作落語はみんなで一緒になって作るもの」と雀三郎、観客の反応も新作を育てていくと話しました。
ネタは桂りょうばの「貧乏神」からスタート。初演は1980年12月。桂枝雀が口演したこのネタを、息子のりょうばが披露します。「通常はトリや中トリでやるネタなので、トップにやるネタではないのですが…」と冒頭で語りつつ、勢いのあるマクラで会場を盛り上げ、噺の世界へと入っていきました。嫁に逃げられた男が貧乏神に憑りつかれるも、気が付けば貧乏神がかいがいしく男の世話をしている様子を朗らかに語るりょうば。男女の関係とはまた異なる、二人の妙な友情関係をたっぷりの笑いと、ほんの少しの寂しさで描きました。
続いて桂佐ん吉が「幽霊の辻」を口演。こちらは1977年に発表した小佐田のデビュー作。オープニングトークでもこの噺に触れ、「再来年で50年になります」と小佐田、長く語られてきたことに目を丸くする一幕もありました。マクラでは「20代の時、小佐田先生にお世話になりました」と佐ん吉、今だから言えるエピソードを告白しました。「水子池」や「獄門地蔵」など恐ろしい光景が次々と出てくる本作。通行人がびくびくとしている様に笑っていると、突然大声を張り上げる佐ん吉に会場全体がビックリ。笑いと恐怖に包まれました。
中トリは桂梅團治で「長屋浪士」です。こちらは2005年に発表したネタで、「小佐田先生に書いてもらいましたが、大変でしたんや~」と振り返る梅團治。ネタおろしの1カ月を切っても台本が上がって来ず、当日は「セリフを覚えるだけの棒読み」だったそう。その後しばらく高座にかけていませんでしたが、「最近は心に余裕が出てきて、ちょいちょいやるようになりました」と笑顔を見せます。赤穂事件をモチーフに長屋のひと騒動を描いた本作。元禄時代の大坂の風景が目の前に生き生きと浮かび上がるような臨場感たっぷりに聞かせました。
中入り後は桂吉弥で、ネタは歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」四段目を基にした「狐芝居」です。こちらは吉弥の師匠である桂吉朝や、桂文之助が雀松時代によくかけていた噺で、大部屋役者の尾上田螺が主人公。上方落語には珍しい侍が出てくる噺……かと思いきや、それは尾上田螺が茶店で仕掛けたひと芝居で、冒頭から一本取られます。芝居小屋で「忠臣蔵」の四段目を上演している場面では、けれん味たっぷりに魅せる吉弥。熱のこもった演技にぐんぐんと引き込まれました。それだけにオチでは夢から醒めたような感覚に。芝居小屋の熱気を味わったひと時でした。
最後はお客さんも一緒に「ファイヤー!」
大トリは桂雀三郎で、「G&G」を口演しました。冒頭で「現代の音曲噺」と小佐田から紹介があったように、ヒット曲などの替え歌を取り入れた賑やかなネタです。カントリーバンド・桂雀三郎withまんぷくブラザーズとしても活動する雀三郎、マクラでは「こう見えましても本職は歌手、落語はアルバイトです」と自己紹介し、笑いを誘います。「G&G」とは劇中に登場するおじいちゃんたちが結成したバンドの名前。G&Gが歌を披露する場面では雀三郎はギターを持ち出し、弾き語りでシャウト!最後はお客さんも一緒に「ファイヤー!!」と叫び、大団円となりました。
次世代の上方落語界の大トリを育てるべく、中トリ、モタレを東西の大御所が担う
天満天神繁昌亭では、次世代の上方落語界の大トリを育てるという意味で、中トリ、モタレを東西の大御所が担い、話芸に秀でた若手噺家が大トリをつとめる落語会「霜月大吉寄席」を上演。11月27日(水)は、桂天吾、笑福亭喬介、笑福亭仁智、古今亭菊之丞、笑福亭喬若という、東西の金看板と若手落語家との競演です。
まずは桂天吾が高座へ。マクラでは自己紹介がてら兵庫県出身であることを明かし、昨今のニュースを絡めて笑いを取ってさっそく客席の雰囲気を温めます。ネタは「動物園」を口演。遊んでばかりの男が仕事の世話をしてもらい、移動動物園で働くことに。男の仕事は、呼び物だった虎が死んでしまったため、代わりに虎が残した毛皮を被って虎になりすますというもの。檻の中で虎になりすますものの、要所要所で人間らしさが出てしまう男の滑稽さを小気味よい語り口で表現し、会場を笑いに包みます。
笑福亭喬介は、近頃あらゆる場所で落語をするそうで、中学や高校、大学で落語を披露した際のエピソードをユニークに繰り出していきます。ネタは「牛ほめ」。先に口演した天吾の「動物園」を引き合いに出し、男が父親に銭儲けを持ちかけられるくだりで「『銭儲け?動物園行きまんの?』『それはさっき終わったやつや!』」と入れ込んでお客さんは大笑い。声色を細かく使い分け、笑いを誘う節回しで、客席の空気を落語の世界にぐっと引き込んでゆきました。
中トリは西の金看板、笑福亭仁智。コロナ禍が明けてさまざまな場所へ出かける機会が増えたという仁智ですが、東京には対抗意識があるそうで「東京はなんか落ち着かへん。嫁の実家みたい」と例えてお客さんは大笑い。ほかにも東京と大阪の違いについて面白おかしく並べてゆき、大いに沸かせます。披露したネタは「EBI」。エビが主人公の創作落語です。エビ軍団とカニ軍団が大阪・道頓堀の戎橋で果たし合いをするというユニークな内容で、いよいよ決戦のとき……予想しないまさかの展開を、上方落語らしくハメモノでも盛り上げました。
モタレは東の金看板、古今亭菊之丞、大トリは“上方落語の松坂大輔”笑福亭喬若!
中入りのあとのモタレは東の金看板、古今亭菊之丞の登場です。マクラでは、芸人仲間の間で一番大変な商売だと言われているという幇間(ほうかん)、いわゆる太鼓持ちの話を。今から30年ほど前、古今亭菊之丞がまだ前座の頃に存命だった太鼓持ちの桜川善平から聞いた逸話から当時の頃を振り返りつつ、噺家になって初めて食べた贅沢品「ふぐ」の話題で盛り上げ、「ふぐ鍋」へ。粋な語り口調の江戸落語に引き込まれ、心地いい笑いと満足感が広がります。
大トリを務めたのは笑福亭喬若です。「上方落語界の松坂大輔です!」とご挨拶してあっという間に観客の心をつかんだ喬若。さらに上方落語のお祭り「彦八まつり」での三代目桂春団治とのエピソードを披露し、そのユニークなやりとりにお客さんは大笑いです。ネタは「初天神」。初天神の日に天満宮へ行こうとする男に、女房が息子を連れていくように言います。屋台で飴や合間に月亭可朝の「嘆きのボイン」を織り込んだり、息子の泣き声がサイレンにそっくりでお客さんから拍手が起きたりと終始賑やかな展開で会場の空気を盛り上げました。最後は緞帳が降りるまで深々と頭を下げる喬若に、観客から盛大な拍手が送られました。