1月27日(金)のなんばグランド花月での公演を皮切りに、大阪府内一円でさまざまな落語会を繰り広げている「第三回 大阪落語祭」。1月28日(土)からは心斎橋PARCO SPACE14にて、勢いのある若手から磨き抜かれた金看板まで、幅広い世代の落語家による「第三回 大阪落語祭 立春大吉寄席~上方落語だらけの九日間~」が行われ、2月5日(日)に千穐楽を迎えました。
千穐楽は2回公演。1回目は、桂文五郎、桂小鯛、笑福亭銀瓶、桂文之助、桂米二、笑福亭鶴瓶が出演しました。
舞台へ飛び出してきたのはトップバッターの文五郎。「今年で落語家になって10年になります。こんな会場で落語ができるようになるんやぞ、と10年前の自分に言ってあげたい。でも、もうちょっとがんばらないといけない」と自分を鼓舞します。ネタは「普請ほめ」。実際の持ち時間が10分であることもセリフに取り入れ、笑いを誘いました。
桂小鯛は枕で「考えたら不思議な仕事」と、落語家という職業に改めて思いをはせ、楽に稼ぎたい若者が動物園のトラになるという「動物園」を口演。トラの毛皮を着る場面はリアリティたっぷりに、猛獣ショーに巻き込まれるクライマックスでは迫り来るライオンを前にした若者の心情を大きな声で熱演しました。
笑福亭銀瓶は、枕で「見台」や「膝隠し」など上方落語特有の小道具のレクチャーを。見台に打ちつけてカーン!と大きな音を立てる「小拍子」は、「寝ているお客さんを起こす役割もあります」とジョークも交えます。ネタは六代 桂文枝が三枝時代に創作した「宿題」。小学生の息子が塾で出された算数の問題に苦戦し、屁理屈で応戦する父親の姿をユーモラスに描きました。そして、そんな父親でも会社では上司という立場、家庭と会社、父親が持つふたつの顔を巧みに演じ分け、魅了しました。
中トリは桂文之助です。2020年のコロナ自粛期間中は時代劇を見ていたと、枕で話す文之助。時代劇にありがちな矛盾を取り上げると、お客さんも大きくうなずきます。特によく見たという「桃太郎侍」はクライマックスシーンを再現。主題歌も朗々と歌い、拍手が沸き起こりました。ネタは「夢の酒」。冒頭では春先の風情を感じさせ、季節を先取りした気分に。若旦那が見たという夢での出来事を疑似体するような心持ちで楽しめました。
仲入後は桂米二が登場。パソコンやスマホを使うため簡単な漢字も書けなくなったと嘆く米二。「戦前は字の書けない人が多かったようで…」と、「代書」を披露しました。文字どころか一般常識もおぼつかない男と、男の履歴書を代書する代書屋。天真爛漫な男とは違い、口数少ない代書屋。その心情を表情豊かに魅せ、対照的なふたりのやり取りで会場を沸かせました。
大トリは笑福亭鶴瓶です。鶴瓶が高座に座ると会場の明かりがすーっと暗くなり、それまではとは打って変わった雰囲気に。ネタは江戸落語の大ネタ「芝浜」です。大阪では「夢の皮財布」という題で演じられていますが、題名通り、芝浜を舞台に演じたかったと、主人公の設定に工夫を加えて披露しました。大阪弁の男と江戸言葉のおかみさんのやり取りを、絶妙な息と間(ま)で魅せる鶴瓶。オチ台詞の前に訪れた静寂では、お客さんが息を飲む様子も伝わってきました。
2回目は、笑福亭笑利、桂三語、桂ちょうば、露の都、林家染雀、桂文枝が出演しました。
鮮やかな黄緑色の着物で先陣を切った笑福亭笑利は、ばくちのネタ「看板の一」を口演。前半ではかつての博徒であるおやっさんを迫力たっぷりに熱演。おやっさんが若者を一杯食わす場面ではお客さんも「騙された!」というリアクションで呼応します。後半は打って変わって笑いの場面も多く、ツッコミ台詞をとどろかせました。
続いては桂三語が登場。満席の会場を見渡して「(チケット代)1000円の力はすごいですね~!」とにやけます。そして「いろんな病気がありますが、病気とどう付き合うか…」と言って「義眼」を披露。このネタは奇想天外な結末を迎えることもあって、時折、お客さんに話しかけては噺の世界へと引き込みました。
桂ちょうばは枕で「アート系の値付けは難しい」と、ある有名な絵画が96億円で落札されたエピソードに触れ、「96億円ですよ! 96円置くんと違いますよ」とトミーズのギャグで沸かせます。このギャグはトミーズ・雅さんから直々に使用許可が下りたとか。ネタは伝説の名工で知られる左甚五郎が出てくる「竹の水仙」を。巧みな演じ分けで、生き生きと描きました。
中トリは露の都です。年齢を重ねるにつれ現れる体の変化を嘆きつつも「60歳を過ぎたら人生は楽しい」と朗らかに話します。そして「男と女も分からないもの」と言って、男女の化かし合いが痛快な「星野屋」を高座にかけました。悪知恵を働かせる母娘の姿はリアリティ抜群、女性の怖さをにじませて笑いを誘います。また、難波橋の場面では上方落語特有の音楽効果「はめもの」で夜の川の風情を映し出しました。
仲入後は林家染雀から。「立春大吉寄席」の千穐楽とあって「もうゴールが見えてきましたよ!」と声かけします。「中トリ」や「大トリ」という寄席や落語会の出番順の解説では、「フルコースの順番にたとえると分かりやすい」と染雀。「私はパンに添えられたバターのようなもの」と言いつつ、「隣の桜」を熱演。花見の場面でははめものも大活躍、風情もたっぷりで春のにおいが会場中に充満しました。最後は後ろ向きで踊る「後ろ面」も披露。寄席の踊りを得意とする林家一門の真骨頂を見せました。
そしていよいよ大トリ、六代 桂文枝の登場です。枕では「健康が大事」と切々と語る文枝。ネタは自ら手掛けた創作落語「惚けてたまるか!」をたっぷりと。認知症の検査で医療機関を訪ねた高齢の父親は、認知チェックの質問をされるごとに亡き妻ののろけ話を延々と語ります。時に昭和の歌謡曲の一節も歌い、場内からは拍手が。また、終盤で冒頭の場面の伏線を回収すると、会場からは「おお!」という声も聞こえてきました。尽きることない妻への愛情に、会場はほっこりとした雰囲気に包まれました。
総勢78人の上方落語家が出演した「第三回 大阪落語祭 立春大吉寄席~上方落語だらけの九日間~」もこれにてお開き。一門それぞれの色合いや落語家の個性も楽しめ、上方落語の層の厚さを改めて感じられた9日間でした。