9月8日(木)より、大阪松竹座にて大阪文化芸術創出事業「歌舞伎特別公演」がスタートし、多くの観客が来場しました。
この「歌舞伎特別公演」は「大阪文化芸術創出事業」の幕開けとなるプログラム。公演は三部制で行われ、第一部が『傾城反魂香』、『男女道成寺』、第二部が『神霊矢口渡』、『博奕十王』、そして第三部が『夏祭浪花鑑』という内容です。出演者である中村鴈治郎、市川猿之助、片岡愛之助、中村壱太郎らの熱演に、会場となった大阪松竹座は大いに盛り上がりました。初日の様子をレポートします。
開場の午前10時20分には大阪松竹座前に多くの来場者が集まりました。会場では新型コロナウイルス感染防止対策を徹底。入場口ではサーモカメラによる検温を実施、アルコール消毒などの対策が取られました。
第一部最初の演目である『傾城反魂香』は、中村鴈治郎演じる絵師の又平と市川猿之助演じる女房のおとく、この夫婦の絆が起こす奇跡のお話。片岡愛之助はストーリーの転換点となる出来事を告げる狩野雅楽之助を演じました。中村鴈治郎は、生まれつき口の不自由な絵師の又平をコミカルな表情、動きで熱演。又平とは逆に達者なしゃべりの妻、おとくを演じた市川猿之助は、夫を支える妻の姿をときにシリアスに、ときにユニークに演じ、仲睦まじい夫婦の姿を見せてくれました。2人の姿には度々笑いも起き、最後は会場が大きな拍手に包まれていました。
続いては男女の踊り比べが見どころの『男女道成寺』です。白拍子桜子、実は狂言師左近を片岡愛之助、白拍子花子を中村壱太郎が演じるこの演目。桜一面の舞台に負けず、艶やかな出で立ちの2人に会場からは拍手が起こります。片岡愛之助は台詞に「大阪松竹座」を入れて盛り上げたかと思うと、次々と面を変えながら踊るなど、会場をわかせます。中村壱太郎も華麗な踊りに加え、衣装が一瞬で変わるなどの見せ場も披露。ラストは2人の見事な舞で締めくくりました。
第二部最初の演目は『神霊矢口渡』から、頓兵衛住家の場を上演。中村壱太郎演じるお舟が、一夜の宿を求めて訪れてきた新田義峯に一瞬にして恋に落ち、義峯に対してアグレッシブに行動を起こす姿が義太夫によって語られるのが面白く、女心の機微がよく表現されていました。対照的に、お舟の父である頓兵衛を中村鴈治郎が実に憎らしく演じ、仇でもある頓兵衛を討とうとする義峯に対する複雑な思いと、身を呈して義峯を守ろうとするお舟の姿に思わず涙がこぼれる演目でした。
続くは市川猿之助扮する博奕打ちと、最近、地獄に来る人が少なくなったということで自ら六道の辻へ出向き死者を地獄へ引っ張ってこようとする、市川青虎に演じる閻魔大王たちとの滑稽なやり取りが楽しい『博奕十王』。博奕好きなだけあって、閻魔様をカモにして最終的には極楽行きの手形まで巻き上げてしまう姿に、会場は大笑いに包まれました。松羽目の舞台の松が地獄ゆえに枯れていたり、長唄から後見までいわゆる幽霊の三角の紙烏帽子姿でいたり、踊りが花札とリンクしていたりと遊び心が溢れていました。
第三部は『夏祭浪花鑑』から住吉鳥居前の場、三婦内の場、長町裏の場を上演。義侠心の強い団七九郎兵衛が、恩を受けた玉島兵太夫の息子、磯之丞とその恋人琴浦を守るために、欲に目が眩んで悪人の片棒を担いだ舅の義平次を、心ならずも長町裏で殺すという話。
牢に入れられていた片岡愛之助演じる髭の伸びた団七が、迎えに来た中村鴈治郎演じる三婦に言われるがまま床屋に入り、さっぱりとした侠客姿で再び登場する場面が見ものの一つ。三婦内の場では、愛之助が二役目を務めた侠客徳兵衛の女房・お辰の、三婦との見事なやり取りを見せます。
長町裏の場になるといよいよシリアスな展開に、中村亀鶴演じる義平次に手をかける団七、「泥場」とも言われ、舞台の切り穴に泥を張り、団七、義平次が泥だらけとなって立ち回りを繰り広げます。なかなか死なない舅を斬りつける場面に、夏祭りでのだんじり囃子が鳴り響き、陰と陽の対比が強調され、これからさらに悲劇を迎える団七が去っていく姿に観客は圧倒されました。
「歌舞伎特別公演」は9月8日(木)から11日(日)の間、大阪松竹座で開催されました。