大阪芸術文化FES

2018年9月29日(土)- 11月4日(日)

オペラ「藤戸」

日本の伝統「能」と西洋オペラで魅せる「藤戸」。その迫力ある音と声を堪能

10月31日(水)、いずみホールにて、大阪オペラ座主催によるオペラ「藤戸-戦の果ての子守唄-」が昼と夜の二公演で行われました。
夜の部では、第一部で「オペラへの誘い」として西洋オペラを披露。舞台の下手には、指揮者の井村誠貴さんをはじめとして、フルート・谷風佳孝さん、チェロ・日野俊介さん、パーカッション・奥野敏文さん、ピアノ・宮﨑真理子さん、シンセサイザー・波多野聖子さんというメンバーでアンサンブルが控えます。

最初はジョルジュ・ビゼーの「カルメン」から「ジプシーの歌」です。アンサンブルが軽快な音楽を奏でる中、武庫川女子大学ダンス部のメンバーが扮するジプシーたちが軽やかなステップで登場。そこに、カルメン・田中千佳子さん、フラスキータ・山口知代さん、メルセデス・木村美穂さんのやわらかいソプラノが響き、観客はダンスと音楽の美しいハーモニーを楽しみました。

次は、「カルメン」の中でも世界的に有名な「闘牛士の歌」。闘牛士エスカミーショ・高橋純さんが美しいバリトンを響かせます。カルメンの田中千佳子さん、民衆を演じる大阪オペラ座合唱団の方々の歌声も重なり、観客はカルメンの世界にどんどん引き込まれていきました。
カルメンの最後を飾るのは、「花の歌」。ドン・ホセ・井上元気さんが澄んだテノールでカルメンへのせつない恋心を熱唱。たった一人で会場全体を魅了しました。

次のオペラは、ヴェルディの「椿姫」より「ジプシーの娘たちの歌」です。さきほどとは打って変わって、アンサンブルが奏でる明るく軽やかな音楽とともに、ダンサーが青いドレスを揺らしながら軽快なステップで登場。大阪オペラ座合唱団の女性歌手のみなさんによる高らかな歌声が美しいハーモニーを奏でます。

締めくくりは、「不思議だわ〜花から花へ」。ヴィオレッタ・金岡怜奈さんが華やかなドレスで登場し、空間に響き渡るソプラノで、ヴィオレッタの心の葛藤を伸びやかで情感豊かに歌い上げます。また、アルフレード・総毛創さんが舞台のバルコニーに姿を現し、テノールでアルフレードの愛を訴えます。2人の歌声が行き交い、観客はますますオペラの世界に引きずりこまれていきました。

休憩をはさんで第二部では、先に日本の伝統芸能である能で「藤戸」を、次に有吉佐和子さんの「藤戸の浦」に尾上和彦さんが作曲して生まれたオペラ「藤戸」を披露します。藤戸は、12世紀の備前(岡山県)児島、藤戸の浦の新領主である佐々木盛綱と、佐々木によって子を殺された母の双方の苦しみ、悲しみを描いた物語です。

まずは、能での「藤戸」です。薄暗く静まり返った会場に、前口上が朗々と響き渡ります。そこへ、シテ方・山本章弘さんが装束姿で登場し、「藤戸」を仕舞と謡いで表現します。見せ所だけを切り取った短縮版ではありますが、小道具のないシンプルな舞台に立ち、重厚な物言いとゆっくりとした舞、間で表現する人間の生き様には観客も圧倒されていました。

そして、オペラ「藤戸」へ。アンサンブルが再び楽曲を奏ではじめ、波の精演じる中川智樹さん、総毛創さん、井上元気さん、高橋純さん、下林一也さん、鳥山浩詩さんが客席の後方から青緑の衣装でゆっくりと舞台へと降りていき、千鳥・松原友さんが加わります。舞台には、子を殺された母を演じる倉橋緑さんが打ちひしがれた様子で佇んでいます。そこに、武将・佐々木盛綱演じる油井宏隆さんが登場。油井さんの美しく力強いバリトンと、倉橋さんの悲しみに満ちたソプラノで物語が進行していきます。

松井るみさん演じる子供が登場し佐々木と海を渡る臨場感あふれる場面や、母が我が子を返せと佐々木に詰め寄る場面の鬼気迫る緊迫感、それらを全身で表現する演者と場面ごとに心を動かすアンサンブルの音の迫力に、会場の雰囲気がどんどんのみ込まれていきます。子の復讐を果たすため、佐々木盛綱を刀で切ろうとする場面には観客が息をのみ、やはり切ることができず狂乱のうちに歌う母の子守唄には涙を見せる人も。最後の最後まで目の離せない舞台でした。

全ての演目が終了すると、カーテンコールが行われて、演者たちに会場から惜しみない拍手が贈られました。

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